三浦綾子さんは私が好きな作家のひとりで、「銃口」は20年ほど前に買って読んだ本です。
結婚を機に、引っ越しのため地元のブックオフで売ってしまい、今になってから「売らなきゃよかったな~」と思っていたものでした。
この本は作者が晩年の頃に書いた本で、初版から20年ほど経っているということもあり、本屋さんに行っても見かけることは殆どありませんでした。見つけたとしても、上下巻揃っていなかったり、本がくたびれていたりということもあり、なかなか買えずにいました(通販で買えば売ってるんですけど)。
今日たまたま主人と隣町のブックオフへ行ったら、最後の最後で見つけました。しかも上下巻揃っていて、本の状態がとても良かったんです。運命を感じてしまいました。
私の手元には、林真理子著「白蓮れんれん」があったのですが、それを本棚に戻し、この本の上下巻2冊を買う事にしました。
「銃口」のあらすじ
昭和元年、北森竜太は北海道旭川の小学4年生。納豆売りをしている転校生中原芳子に対する担任坂部先生の温かい言葉に心打たれ、竜太は教師を志す。竜太の家は祖父の代からの質屋。父、政太郎は俠気の人で、竜太が中学生の折、工事現場から逃げ出した朝鮮の青年、金俊明を匿い、ひそかに逃がしたこともある。日中戦争が始まった昭和12年、竜太は望んで炭鉱の町の小学校へ赴任する。生徒をいつくしみ、芳子との愛を育みながら、理想に燃える二人の背後に不気味な足音、それはこれからの過酷な運命の序曲だった。
昭和16年、竜太は思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で勾留、7か月の独房生活の後、釈放された。坂部も同じ容疑で捕えられ釈放されたもののすでに逝くなっていたことを知り慟哭。芳子や家族に支えられ、ようやく立ち直った矢先に、召集の赤紙が届く。それは芳子との結婚式の直前だった。軍隊生活、そして20年8月15日。満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口を突きつけられる。そこへ思いがけない人物が現れて助けられ、やっとの思いで祖国の土を踏む。再開した竜太と芳子にあの黒い影が消える日はいつ来るのか・・・。
三浦綾子著「銃口」より
思想を統制された窮屈な時代を生きる主人公が、荒波にもまれて挫折しながらも、善意ある人たちに助けられその時代を一生懸命生きる姿が書かれています。
北海道綴方教育連盟事件に巻き込まれてから、主人公の生活が激変します。たまたま誘われて参加しただけで、共産主義の仲間として疑われ、牢獄に入れられる。本来であれば全くの濡れ衣なのに、疑いだけで犯罪者として扱われる。それがのちのち尾を引く。戦争時代の日本はなんて恐ろしい国なんだろう。
このことがキッカケで、軍隊でも違う目で見られていた主人公ですが、その実直な性格を理解してくれる人がいたおかげで、逆境をも乗り越えていきます。
この小説は、主人公がとても純粋で誠実だからこそ、のめり込んで読めるのだと思います。どちらかというと、考え方が宗教的ですが、人が人として生きるために大切なことは何か?ということを思い起こさせてくれます。