タイトルや表紙を見るとファンタジー小説に思えますが、実際は13世紀に生きたグルジア王国(現・ジョージア)の女王ルスダンをモデルにした架空の物語でした。
あらすじ
13世紀、ジョージア王国はヨーロッパで初めて「モンゴルの禍」に接触した。偉大な女王タマラを母に持つ天真爛漫な王女ルスダンは、兄王ギオルギの死によってヨーロッパ最果ての王国の運命を双肩に担うことになる。東方から次々と襲い来るモンゴルとホラズムの脅威に、美貌の女王はただ一国のみで立ち向かう。
スルタン・ジャラルッディーンとの果て知れぬ戦い。宰相イヴァネ・ザカリアンをはじめとする廷臣たちの思惑。そしてルーム・セルジュークから人質としてやってきた王子との絶ちがたい絆――。
中央ユーラシアを舞台に繰り広げられるヒストリカルロマン!「Amazon」より
主な登場人物
- ルスダン・・・ジョージア王国の王女。<大王>と称される偉大な女王タマラと、オセットの将軍ダヴィド・ソスランの娘。ギオルギ光輝王の妹。
- ディミトリ・・・イスラム教国ルーム・セルジュークの帝王を祖父に持つ王子。現帝王の伯父エルズルム公の第四子。祖国から人質としてジョージア王国に送られてくる。
- ギオルギ・・・光輝王と異名されるジョージア王。少年のころから母タマラより共同統治者として帝王学を直伝され、名君の誉れ高いが、自由を愛し奔放な振る舞いが目立つ。
- イヴァネ・ザカリアン・・・女王タマラの時代から重用されてきた老臣。ジョージア王国の宰相にして元帥。
- ミヘイル・・・ルスダンを慕う白人奴隷。
- ジャラルッディーン・・・かつてペルシア高原から中央アジアにかけて広大な所領を有しながら、モンゴルによって瓦解させられた大帝国ホラズム・シャー朝の生き残り。亡国の帝王としてホラズムの残党を指揮し、モンゴルを相手に転戦を続ける。国家再興の拠点を求めてジョージアにやってくる。
- ムハンマド・アン=ナサウィー・・・ジャラルッディーンの腹心の書記官。主君とディナール金貨とを深く愛する。
感想
この物語は、ルスダンが自殺を決意するところから始まり、彼女をそうさせた理由が本編によって明らかになるという、結起承転で書かれた文章構成となっています。
まず印象に残ったのは、ルスダンが自殺の手段として、数ある毒の中から狐の手袋を選んだことです。人間、死ぬときは苦しまず楽に死にたいと思うものですが、彼女はなぜか長く苦しむ毒を選んでいます。
その理由は夫・ディミトリの死にあるのですが、あえて狐の手袋を選ぶことで、夫への純愛を貫く覚悟をしたのではないでしょうか。
とはいえ、兄王ギオルギの最後の言葉通り、甥のダヴィドを王位後継者にしていれば、ルスダンが自死を選ぶという最悪の結果にはならなかったのかもしれません。
しかしながら、ギオルギとルスダンの王政時代は、モンゴル軍とホラズム軍の猛攻を幾度となく受けるという苦難の時代でした。
ホラズムの申し入れ通り、ディミトリと離縁してジャラルッディーン王子の求婚を受け入れていれば、愛するディミトリや罪のない善良な市民を失わずに済んだはずです。ましてや、ホラズムと手を組めば、兄王を殺した憎いモンゴル軍に打ち勝つことができたかもしれないのです。
兄王は生前「愛するということは、いつも傍にいて一緒に笑ったりすることだと思っていた。だが、多分それだけではないのだと思う。愛すればこそ、敢えて離れて生きるということもあるのだ」と、ディミトリに言っていました。
もしルスダンがその言葉を聞いていれば、運命が変わったかもしれません。
でもやはり、ルスダンは女王である前に一人の女性。幼いころから愛し続けたディミトリがいなくなれば、心の支えが無くなり、女王としていられなくなったことでしょう。
ジョージアを思いつつも、愛に生きた女王が国を衰退させたという、バッドエンドな結末に韓流ドラマのような物悲しさを感じました。